※この記事はNoteから転載したものです。https://note.com/munimon/n/n1908d5c872d3
2023年2月 サンフランシスコ
早稲田MBAの授業の一環でサンフランシスコ・シリコンバレー・スタンフォード大学に視察旅行に行ってきました。
合計11日間の比較的長旅でした。
サンフランシスコからシリコンバレーエリアをいわゆる「ベイエリア」と呼ぶようですが、ベイエリアの「移動」に着目して感じたことを書いていきたいと思います。
サンフランシスコの移動手段の多様性と受容性
まずサンフランシスコで驚いたのが移動手段の多様性です。
フィジカルな手段としては自動車、自転車、バス、路面電車、電動キックボードが挙げられます。
これらの手段は日本でもみられますが、もっとも異なる点は多様な移動手段にそれぞれの「居場所」が与えられていることでした。
しかもその居場所は道路インフラの面とサービスの面というハード・ソフトの両面から与えられているものでした。
ハード面での居場所
Market Streetの道路構造
こちらがサンフランシスコの中心街路であるMarket Streetの横断構成になります。
非常に広い通りなのですが、「車道or歩道」という二分ではなく、歩道・自転車道・車道・バス道+滞留ゾーンというふうに空間が細分化され、それぞれの移動に対してきちんとスペースが用意されていました。
パーソナルモビリティの居場所
日本ではまだ新しい電動ロードバイクをはじめ、自転車などのパーソナルモビリティに対しては専用道だけでなく、駐輪して鍵をかけるための柵のようなものが道路の要所に設けてあり、安心して街中でも駐輪ができるかたちになっており、きちんとハードの面で居場所が用意されていることがわかりました。
駐輪するための柵は街灯やゴミ箱、広告、バス停などの道路付属物とおなじラインに配置されており、カーブサイドと歩道を区分するゾーンとして明確に意識されているようです。
空間構成とボリューム配分
仮に東京でこんな柵を用意したら無数の自転車が柵を取り合う光景が思い浮かびますね…。どのようにコントロールがされているのか。きちんとルールを調査してみないとわからないところもありますが、交通手段ごとに居場所が用意されているという面から考えると次のことが言えるかもしれません。
- スペースのおおきさによって通行できるモビリティの量の上限がある
- 上限があることで、モビリティごとの交通量がそれぞれ調整される
- 交通手段ごとの交通量が適切なバランスになるようコントロールができる
こういった流れで、インフラ側と交通側がいい具合に調整され、自転車だらけとか、車だらけというふうに偏らない交通が成立しているのかもしれません。
(もちろん、近年のコロナショックで都心への人口集中が緩和している・治安の悪化によって中心市街地の人口が減っているなどの要因もあると思いますが…。)
ソフト面の居場所
シェアライド(車)
さすがUberのお膝元、シェアライド系のサービスの充実ぶりには驚かされました。
どこに行くにしてもUberやLyftが利用でき、Lyftに関してはGoogle Mapからの経路検索の中の候補としてアプリ内に表示されるレベルです。
シェアサイクル
シェアサイクルに関しても同様。いくつかのシェア系の電動キックボードやシェアサイクルサービスがGoogle Mapに統合されている。
こういったサービス側の連携というソフトの面と、フィジカルには駐輪可能な柵がハード側として用意されていることが利便性の高い多様なモビリティを提供できていると実感できました。
もちろん、それぞれのサービスが提供するアプリを開いて直接利用してもOKです。その場合はUber OneやLyft Pinkといったプレミアムサービスが利用できる。
ぬるっとMaaS
モビリティに関するサービスを提供する主体どうしの適度な連携によって、利用者がそれぞれの好きな交通手段を状況に合わせて選べるという、全体として利便性が高い多様性のあるモビリティ環境ももたらしているのがサンフランシスコの特徴であると感じました。
しかも特定のアプリでなくてもよく、各自の好きなようにサービスを利用でき、組み合わせ方も自由、決済方法も自由。この自由さと、サービス同士の程よい連携が非常に心地よい。
このサービス同士の疎結合による組み合わせの自由度の高さを勝手ながら「ぬるっとMaaS」と呼ぶことにします笑
サンフランシスコの「MaaSレベル」
MaaSレベルという言葉があります。そもそもMaaSは「いろいろな種類の交通サービスを需要に応じて利用できる一つの移動サービスに統合すること」と定義されています。(MaaS Allianceによる)
この「統合」という言葉に基づきMaaSのレベルが定義されているわけですが、それに基づくとサンフランシスコのMaaSはレベル2と3の間くらいでしょうか。
MaaSレベル0:統合なし
自動運転Lab「MaaSレベルとは? 0〜4の5段階に分類」より
レベル0は「統合なし」で、それぞれの移動主体が独立したままサービスを提供する旧来のものを指す。
MaaSレベル1:情報の統合
レベル1は「情報の統合」で、利用者には料金や時間、距離など各移動主体に関するさまざまな情報が提供される。
MaaSレベル2:予約、決済の統合
レベル2は「予約、決済の統合」で、ワンストップで発券や予約、支払いなどが可能となる。利用者はスマートフォンなどのアプリケーションで目的地までのさまざまな移動手段を一括比較し、複数の移動主体を組み合わせたまま予約や決済などができるようになる。
MaaSレベル3:サービス提供の統合
レベル3は「サービス提供の統合」で、公共交通をはじめレンタカーなども連携したサービスや料金体系の統合が求められ、事業者間での提携などが行われることでサービスの高度化などが図られることになる。例えば、ある目的地に向かう際、どの交通手段を使っても一律料金が適用される場合や、月定額料金で一定区域内の移動サービスが乗り放題になるプラットフォームなどが挙げられる。
MaaSレベル4:政策の統合
そして最高度のレベル4は「政策の統合」となり、国や自治体、事業者が、都市計画や政策レベルで交通の在り方について協調していく。国家プロジェクトの形で推進される最終形態だ。
https://jidounten-lab.com/u_maas-level#MaaS-3
MaaSレベルにおける「統合」への違和感
しかし「ぬるっとMaaS」の自由度の高さと事業者同士の連携による利便性はどうも「統合」という言葉のニュアンスとは少し異なっている印象を受けました。
「統合」というと日本のMaaSアプリでは「このアプリ1つで〇〇地域の交通はすべて網羅しています!予約も決済もココからできます!全部統合されています!」みたいなことをアピールしているものが多いような気もします。(まぁ、、そもそも最近MaaSって言葉が古いかもですが笑)
この統合の方向性と「ぬるっとMaaS」の方向性が少し異なっている印象を受けました。
統合レベルを重視していくスタンスのMaaSでは、サンフランシスコでGoogle Mapからすべての事業者を比較できたことに着目し、「われこそはGoogle Mapになるぞ!」という努力につながると思います。
それに対し、ぬるっとMaaSでは「Google Mapもあるけどうちのサービスはこういう人をターゲットにして、こういうサービスを作りたいから、うまく外のサービスとAPI連携しながら新しい価値を作っていこう!」という方向になると思います。
このスタンスがモビリティの多様性と需要性を生み出していくのかなと考えています。やはり実際に体験した身としては日本においても「ぬるっとMaaS」を目指していきたいとおもいます。
No responses yet